新しいビジネスを考えるというのは難しいものだ。とは言え、新規ビジネスを考えるときの方法は次の4パターンくらいしかないように思う。
- 現状のビジネスの改善
- 現在の取り扱い商品への別分野のビジネスモデルの適用
- 現在のビジネスモデルの別商品への適用
- まったく新規の発想
1番目の端的な例はコスト削減案で、無駄なルーチンワークを減らして人員を削減するとか、原材料を見直して原価を下げるといったもの。2番目の例は、商品管理にカンバン方式を導入して、ジャストインタイムな商品小売を実現したコンビニエンスストア、3番目の例は、カジュアル衣料で成功したSPAというビジネスモデルを野菜にも導入しようとしたユニクロが挙げられるだろう(残念ながら失敗に終わったが)。でもって4番目は、ある日突然天からの啓示が稲妻の如く脳裏に閃くもの、平たく言えば「思い付き」がそれにあたる。今回のエントリはこの「思い付き」型新規ビジネス提案がテーマである。
「思い付き」はふとした瞬間に訪れる。仕事を片付けて帰ろうとした瞬間だとか、音楽を聴きつつ車を運転してる時だとか、友人とまるで関係のない雑談をしている時などに突然閃くのである。その閃きがあまりに鮮烈なものだから、大抵の場合、思いついた瞬間は自分が神になったかと錯覚してしまうほどだ。友人と雑談中に思いついた時などは、そのアイデアで世界を変革できるんじゃないか、というくらいに盛り上がる。その実、落ち着いてGoogleで検索してみると、とっくの昔にビジネス化されていて、極度に落胆したりするものだ。問題は、「思い付き」がGoogleでヒットせず、具体的に検討段階に進んだ場合である。
以前、「ちゃんと考えること、ちゃんと議論すること、ちゃんとアウトプットすること」というエントリで述べたが、「思い付き」をビジネスにするためには、ファクトをベースに「考え」、「議論し」なければならない。勿論、まったく新規の市場をターゲットとする場合には、既存のデータをもとに推測するほかない。例えば、40代以上の日本の主婦をターゲットにした健康志向の有料SNSを検討するとしよう。この場合、「40代以上の主婦が日本に何人いるか」「健康に気を使う人がその内何%いるか」「どれ位の可処分所得があるか」等々のデータを組み合わせて、ターゲット市場を想定していくわけである。政府やシンクタンクが発表した統計データや独自アンケート調査を元に試算した結果、数百億円規模の市場が見積もれたならば、取らぬ狸の皮算用で狂喜乱舞することだろう。
では、このマーケット予想をもとに、ビジネスを開始してよいか。確かに、一見、アプローチ方法は間違っていないように思える。アイデアを具体的なビジネスモデルに落とし込み、想定顧客をイメージし、その想定を元に客観的なデータから市場サイズを予測する。市場サイズを測る手法は、実に冷静かつ客観的であり、主観的な思い込みではない。しかし、その一見「客観的なアプローチ」に致命的な落とし穴があるのだ。確かにデータ及び計算方法は客観的だろう。しかしながら、その「前提条件」はどうか。本当に想定顧客が十分具体的にイメージできているだろうか。先の健康志向SNSの例で言えば、果たして40代の主婦がインターネット上のコミュニティで活発に交流するのだろうか。
失敗するビジネスは、この「具体性」が自分勝手な妄想になっていることが非常に多い。そもそも、自分が所属しているセグメント以外の人間がどのような嗜好を持ち、どのような行動原理に基づいて消費活動を行うか、というのはイメージしづらいものである。加えて、自分が所属している「セグメント」が如何に特殊なものであるか、については多くの人が見落としがちだ。年齢、性別、職業、趣味、可処分所得、等々の複数のパラメータで自分を分類していくと、自分が如何に特殊かということに気づくことができるはずである。そのような「特殊」な自分が、他のセグメントに属する人間の行動を予測するのは非常に難しい。結局、どれだけ客観的な想定に基づいたとしても、そのようなビジネスは思い付きに過ぎず、頭で考えただけの「絵に描いた餅」になってしまうのである。
ここまで書くと、こうした「思い付き」型新規ビジネスは押し並べて失敗するかのように思える。しかしその実、「思い付き」こそがイノベーションを起こし得る可能性を秘めているのもまた事実である。また、「思い付き」とは脳内で瞬時に複数の価値判断を組み合わせた結果であり、思い付いた瞬間に自分自身の価値観の集大成となっているものなのだ(この点に関する理論的裏付けは長くなるので割愛)。大事なことは、「思い付き」を頭で考えただけの独善的なアイデアに落とし込むのではなく、自らの価値観に照らして地に足の着いたアイデアに仕上げることである。先の健康SNSの例で言えば、自分が最初に思い付いたターゲットユーザーは、40代主婦ではなく、自分自身であるかもしれない。この部分の見極めこそがビジネスの成否を決定すると言っても過言ではない。Googleは結局自分の使いたいサービスを独善的に拡大しているだけである。理論派を気取るビジネスマンたちも、この点をよく考える必要がある。
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